【イベント御礼】2021.1/15『粋を纏う』~ 江戸男子の着こなし~ レポート

2021.1/15(金)に渋谷のBAGONEさんにて『粋を纏う』~江戸男子の着こなし~ が開催されました。時勢の悪い中、ご参加いただいた皆様に多大なる感謝を申し上げます。

この場を借りて、当日のイベントレポートをお伝えいたします!

登壇者は『お江戸ファッション図鑑』著者・撫子 凛先生と、太田記念美術館・赤木美智様。そして司会進行に同じく太田記念美術館・渡邉晃様です。

第一部は赤木様の進行で、原画と撫子先生が描き起こしたイラストを見比べながらのトークタイム。当時流行の服飾や元絵に描かれた背景のお話、そしてイラスト作画の際の思い出話をまじえながら、思い思いに語られます。

あざやかな朝顔の日傘をさした『町娘』(お江戸ファッション図鑑 P20)のイラストが登場した際には、「これはみんなすきなやつです!」「今見てもかわいい。」と楽しそうに語る撫子先生。朝顔の日傘に花模様のお着物が華やかで素敵な一枚です。ストライプや格子柄のお着物の模様の作画は大変だったそうですが、「浮世絵は細かい模様もすべて手彫りで作られている。浮世絵師は本当にすごい存在」と仰っていました。

そしてこちらは『若衆』の元絵とイラスト。太田記念美術館に所蔵されているこちらの元絵、拡大してみると・・・

実はこのような絵となっております!麗しい若衆の姿を一目見ようと女性が殺到し、【密】状態!!なんとしてもイケメンを拝みたい…その心は、古今東西変わらないようです。

この元絵のもう一つの見どころ⁉として、お付きの男性の『うっすら生えたおしりの毛』を挙げる撫子先生。これには会場から笑い声がちらほら・・。お写真からはご覧いただけませんが、お付きの男性のおしりにうっすら産毛が描かれています。赤木様曰く、少々暑苦しい男性がともに描写されることは結構あるそうです。『若衆』の中性的な佇まいの引き立て役なのでしょうか・・?

『若衆』は、一見女性に見える中性的な装いが一番大きな特徴で、彼らの着こなしは、女性ファッションにおいても非常に注目されていました。渡邉様いわく、こちらの絵は打ち合わせの際にお三方で大変話が盛り上がった1枚だそう。一枚の絵から様々なストーリーが思い起こされる浮世絵の世界、じつに奥深いです…!

第二部は、太田記念美術館で開催中の『和装男子―江戸の粋と色気―』展を主軸にしたトークタイム。こちらで展示中の浮世絵作品を見ながら、和やかなお江戸の服飾トークは続きます。

太田記念美術館は、原宿に所在している浮世絵専門の美術館です。こちらでは2014年に花魁ファッションのイベントを開催し、以後男性ファッションにも注目していきたいと展覧企画を考えていらっしゃったそうです。写真左の図録(税込1000円)は、現在通信販売でも取り扱い中とのことですので、ご興味のあるお方はぜひご利用くださいませ!

お話は和装男子の系譜から、『若衆』の話、江戸文化を語るうえで外せない「男色」のお話、それに付随して『陰間』、そして『役者』の話へと巡ります。こういった文化についてはいかがでしょう?という問いかけに、「大好物ですね!」と答える撫子先生。うふふとほほえむ赤木様と渡邉様。

「若衆は中性的に描かれていて、男性でもなく女性でもないもはや超越した存在。そのため浮世絵の知識がないと、すべて女性にみえてしまいます。」と撫子先生は仰います。「見分け方は?」と尋ねる渡邉様に、「前髪の奥に地肌が見えていて、一応剃っている。女性は剃ったりしませんので、この描写で絵の中の人物が男性なんだな、とわかります」と赤木様。このお話は今後浮世絵を見る際にはぜひ参考にしたい部分ですね。

また、今映画も大好評なあの作品で注目⁉されている『市松模様』。

こちらは当時大人気役者だった「佐野川市松」という役者が身に着けて流行した柄です。現在でも市松模様として広く愛されているこの柄は、実は江戸男性のおしゃれから生まれたものでした。火付け役となった市松はたいへんな人気役者だったそうで、彼の奥様は婚姻するために両小指を切断して心中立て(相手への特別な愛を誓う行為)をした、というなかなか衝撃的なエピソードが残っています。

さて江戸後期になると、勇み肌の男性(侠客・アウトローのこと)の作品が増えていきます、と赤木様は仰います。「とても奇抜な衣装を身に着けることが多く、見ていておもしろい作品が多い」のだそう。

侠客といえば『助六』。そのスタイルは当時の浮世絵の中ですでに完成されたスタイルであるため、「江戸市民の美意識も助六の姿に反映されているのではと思います(赤木)」「お芝居の中では、お金があって豪華な衣装なんだけれど、少しダサいみたいな立ち位置として描かれていますよね(渡邉)」とお二方が語っていらっしゃいました。このキメすぎないという美的感覚は、今の私たちのファッションにも通ずるものがありますよね。

そしてこの後は図録のメインビジュアルとなった勝川春湖『橋上の行交 』(画像中央)の男性の着こなしのお話へ。こちらは『お江戸ファッション図鑑』12Pの男性の着こなしの元絵です。縞に縞を重ね、派手色をさし色としたコーディネートは今見ても粋な上級者の着こなしです。頭にはなんと亀戸天神の神札(おふだ)を差して、行楽帰りもしっかりアピール!こちらの作品は「隙あれば展示にねじこみたい」赤木さんのお気に入りの作品とのことですので、展示にてご覧いただく際にはぜひじっくりと眺めていただきたい一枚です。

まだまだこの後も手ぬぐいや帯、煙草入れといった小物のお話など、服飾トークは時間いっぱいまで続きました!

こういった第二部のトークに登場した展示作品は、現地のみでなくnoteでも有料で公開中です(『和装男子―江戸の粋と色気―』展:https://bit.ly/2Kv7vjS)。こちらは不要不急の外出をすることが難しい昨今、お客様のご要望を受け、多くの方が閲覧ができるように…という太田記念美術館様の新たな取り組みによります。展覧会が終了した後も、オンライン展覧会は引き続きご鑑賞できるとの事!お伺いが難しいお方はぜひ、貴重な作品をオンラインでお楽しみくださいませ!!その際はぜひ、弊社刊『お江戸ファッション図鑑』を傍らに作品を眺めていただきますと、より深く楽しめると存じます。

また、オンラインでのご参加の方々からも、チャットにてご質問等いくつかお寄せいただき、誠にありがとうございました。

「国貞は構図のデザイン性が高いですよね。」とのご感想に、『歌川国貞』推しの渡邊様はうれしそうなご様子ですが、「国貞を褒めてくださる方がいらっしゃると感激します。なかなか褒められることがなくて…」とぽつり。「(技術が)逆にすごすぎて、当たり前になっちゃったのかな」と撫子先生。しわの描き方が巧いという国貞は、デッサン力がずばぬけている浮世絵師だそう。このお話を聞いた渡邉様は、「僕は国貞ではないですが、そういったことを言われると物凄くうれしい」と、浮世絵師話に花が咲きました。歌川国芳、歌川広重と比べてしまうと、国貞は決して知名度が高いわけではない存在ですが、当時江戸ナンバーワンの大人気絵師!国貞の描く着物の柄、鮮やかな色彩センスは圧巻ですので、機会がございましたらぜひ作品をご覧になってみてください。

最後に、今回来場されたお客様へのお土産にと撫子先生がご用意してくださったプリントクッキーをチラ見せ!(わたくしまでいただいてしまいました…!)

興味深いお話がたくさんありましたが、そのすべてをご紹介できないことが悔やまれます。冬の寒さを感じる一日でしたが、終始和やかなイベントとなりました。ご参加いただいた皆様、この度は誠にありがとうございました。

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