【イベント御礼】アート・エデュケーター宮本由紀の2DAYS 〜美術とJazzとNY〜DAY1

4/3(土)マール社『アーティストの手紙』 & 『メンタルに効く西洋美術』トークイベント【アート・エデュケーター宮本由紀の2DAYS 〜美術とJazzとNY〜DAY1 @渋谷BAGONE】が開催されました。ご来場および配信にご参加の皆様、誠にありがとうございました。

 

PART1にあたる今回のトークテーマは『~20世紀NY、芸術家カップルの愛~』!今回は特別ゲストとして、日本とNYで活躍するジャズ・シンガーの高田恵美さんをお招きしての初イベントとなりました。弊社刊行『アーティストの手紙』に収められた、アルフレッド・スティーグリッツ&ジョージア・オキーフの「手紙で始まった恋」のお話、そして高田さんによるNYという街の空気感と、音楽家コール・ポータのお話、彼の代表曲『ナイト・アンド・デイ』のお話を交えながら、愛というものの在り方を探ります。

さてトークがはじまる前から宮本先生と高田さんの机の上には白ワインのグラスが…!
ワイングラスをかたむけながら微笑む高田さん。会場からは笑い声がこぼれます。

リラックスムードの中、
スティーグリッツとオキーフのラブレターを紐解いていく第一章。

二人は1916年にNYで出会いました。
すでに写真家の重鎮としてNYでギャラリーを持つ著名人だったスティーグリッツは52歳、一方オキーフはまだまだ駆け出しの画家で当時28歳。二人は手紙での交流を経て、1924年に結婚します。

結婚までに時間がかかったのは、実はスティーグリッツが既婚者であったため(!)そのため二人は結婚までの間に手紙を通じて愛を深めました。

二人が生涯に交わした手紙の枚数はなんと約25,000通!一日に何通も、また毎日送る日もあったそう…!情熱的!!
その手紙のいくつかを収録した手紙集をご覧になった宮本先生は、「オキーフの手紙は画家らしく彼女の作品のように詩的な文章。対するスティーグリッツは写真家だからか描写的、細かい説明書きみたい。」と仰います。

 

また宮本先生がご紹介したスティーグリッツの作品の中に『Song of the sky』という作品があります。
「自分の感情表現の代わりに空を使っている作品ですね」「今でこそみなさんスマホでSNSで空や花の写真などを気軽にたくさんアップされていますが、こういったことを1930年代にスティーグリッツが行っていた、そこに意義がある」と先生。

たとえばもし、現代も写真というものが報道のみでしか使用されない時代が続いていたのならば、
まるで心象を表すかのような景色を人々がとらえ、共有するというような文化は、依然存在すらしないままだったのかもしれませんよね。そう思うと、写真を芸術として高めようとしたスティーグリッツのその視点や感性に改めて驚かされます…!

さて、ここで手紙から始まる恋は、「あり?なし?」と宮本先生がお客様へご質問!

自分なら…ありかな!?と思いましたが、皆さまはいかがでしょう?ちなみに宮本先生は、「ある程度自分の本音が手紙に書かれていると、相手の深い部分までわかってしまいますよね。そこから始まる恋もあるのでは?」とのことでした~!

手紙を通じて強く惹かれあい、結ばれた二人。その過程を経てスティーグリッツはオキーフを被写体に何枚か写真を撮ります。そこに収められたオキーフの姿は謎めいて官能的な空気を漂わせたものでした。そのため当時世間にセンセーショナルなショックを与え、結果的に二人は一躍ちょっとした名声を得ることに…!

しかしこの名声によってオキーフの描いた「大きな花の絵」の作品をみた人々は、性的な・官能的な絵だ!と語り始めます。それを知ったオキーフは大変傷つき、そしてこういうのです。
「皆の心がけがれているから、そう見えるのだ」と…。

オキーフ自身はこの絵を性的表現を込めて描いたわけでないと断固否定し、性的な見方をされることを非常に嫌がり、認めませんでした。「ただ、植物の生殖器官と人間の生殖器官はよく似ているんですよね。だからオキーフの絵から人々が官能的な印象を受けても、それは仕方がなかったのかも」と宮本先生。「このころオキーフ自身は恋の絶頂期。もしかしたら本人も無意識のうちに、そういった気持ちが絵に滲み出ていたのかもしれませんよね。」とオキーフの内面を想像しながらお話されていました。

さて今回のイベントテーマ【美術とJazzとNY】
オキーフの手紙を読んでいると、宮本先生はNYのシーンが、そして作曲家で作詞家のコール・ポーターの『ナイト・アンド・デイ』が頭をよぎったのだそう!『ナイト・アンド・デイ』は夜も昼もあなたのことを想っている…というひたむきな愛を捧げる歌詞が印象的な曲です。ちょうどオキーフとスティーグリッツが生きた1920年代NYではジャズが大流行し、街が一番エキサイティングだった時代。

そこで第二章ではこのコール・ポーターの素顔に触れながら、『ナイト・アンド・デイ』に描かれた情景、そしてNYの生の空気感を、NYと日本で活躍するジャズ・シンガーの高田恵美さんにお話していただきました!

裕福な家庭で育ち、溢れんばかりの才能を開花したコールの生い立ちはこちらでは一部割愛しますが、

「大学時代には300曲もの楽曲を作ったのですけれど、この時代でキャリアにおける3分の1の楽曲を作ってしまったんですよねぇ」
「そしてNYでのきらびやかなナイトライフ…夜遊びですね、大学時代に夢中になって…」
「片道3時間くらいかけて遊びまくって、そして朝方また帰る…という生活を彼は繰り返していたんですよね」

といった天才の素顔が垣間見えるエピソードには驚きです。そして高田さんは多様な愛の形を語られます。

  

「彼はゲイ…男の人を好む方で、パリに移り住んでからは華やかでスキャンダラスな生活をしていましたが、社交場で意気投合し、親しくなったリンダという女性と結婚します。」
「まだ同性愛者であることが認められない時代。結婚はゲイであることのカムフラージュになった。それにコールはとてもやさしい男性で、前の配偶者に暴力を振るわれていたリンダにとっても、また社交界の関係においても互いに有益な結婚だね!と二人で納得したうえでの結婚でした」

「そういった理由もあるけれど、それより何より純粋に二人はお互いを理解しあい愛し合っていたから…だから結婚したんですよね」
「彼女が先に亡くなるまでの35年間、二人は一度も夫婦関係はなかった。でも、それも一つの愛」
「彼の音楽への情熱って、人への愛情…愛が多すぎて…それは妻だったり若い男の子だったり…それを知っていてもリンダはコールの  才能を生涯誰よりも理解し、サポートして。それって愛ですよね」

――――――――――――――――――――――――――――――――
太鼓(トムトム)がドンドンと鳴り響くように
ジャングルに夕暮れの影が落ちる時
チックタック鳴る風格のある古時計のように
壁に立て掛けられている
雨だれがポトポト落ちるように
夏の通り雨が止んだ後に
そう、私の中から何度も何度も声が聞こえてくる
あなた、あなた、あなた…

・・・

昼も夜も
どうしてなのかしら?
どこにいってもあなたへの想いがついてくるの
車の騒音が鳴り響くなかでも
独りきりで過ごす部屋の静けさのなかでも
あなたのことだけ考えてしまうの
夜も昼も…
――――――――――――――――――――――――――――――――(『ナイト・アンド・デイ』)

まるで手紙を待つオキーフの気持ちに重なるような、情熱的な歌詞です。高田さんのCDにも収録されているこの曲。「バース(リフレインの前に配置された序奏部分)で同じ音を使いながらね、あなた、あなた、あなた…という部分が強調されて盛り上がるように作られているんです。非常によく考えられた楽曲なんですよね」と高田さん。

オキーフとスティ―グリッツは、実はこの先スティーグリッツの不貞により最終的に「半別居婚」という関係性に着地します。ただ、離れていても手紙でのやり取りは継続したようです。スティーグリッツの行いが離別の原因であるにもかかわらず、彼は手紙の中でオキーフにすがるかのように不安定で寂しい気持ちを綴りました。それに対してオキーフは母のように冷静に受け止め、返しています。

オキーフはスティーグリッツに揺さぶられ、振り回されはしますが、2人の絆は生涯途絶えることはありませんでした。スティーグリッツが最初に自分を見つけてくれた、自分の才能を開花させてくれた…その恩を彼女を忘れませんでした。

宮本先生が最近読んで感銘を受けたという、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』(紀伊國屋書店)。そこに書いてあるように、

「自分も相手も信じるということ、それが愛の究極ではないかなと。そしてなんの保証もないのに行動を起こせることも愛なのではないのでしょうか」

オキーフとスティ―グリッツ、そしてコール・ポーターの楽曲『ナイト・アンド・デイ』から、
愛とは何なのか?どうあることが愛なのか?を探るDAY1のプログラムでした~!

 

そして来月5月には、引き続きお二方による~DAY2~が開催いたします!テーマは【NYメトロポリタン美術館コレクションに貢献した、カサット&ルイジーヌ〜『メンタルに効く西洋美術』(マール社)を読みながら】

アメリカの美術館やアート界に貢献したカサット。そしてその友人でコレクターのルイジーヌ。二人三脚でコレクションを構築していった彼女たちの姿を、その当時の女性の自立や女性参政権運動も絡めてトークします。

チケット情報は下記リンクからご覧くださいませ!

https://art-jazz-ny-2.peatix.com/『アーティストの手紙』 & 『メンタルに効く西洋美術』トークイベント アート・エデュケーター宮本由紀の2DAYS 〜美術とJazzとNY〜DAY2@渋谷BAGONE

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