【イベント御礼】雄弁な手紙~アーティストの七転び八起き イベントレポート

*換気等、十分な感染症対策をした会場にて、今回はマスクを外しての登壇となっております*

宮本由紀先生による『メンタルに効く西洋美術—逆境にもくじけないアーティストたち』刊行記念トークイベント 雄弁な手紙~アーティストの七転び八起き が1月30日に開催されました。当日会場とオンラインにてご来場いただいた皆様へ、心より感謝申し上げます。

今回のイベントは、

Part1:“俺様”ミケランジェロに愛はあったか?
Part2:“熱血”カイユボットの手紙で丸わかり!印象派の派閥
Part3:“繊細さん”ゴッホ—ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)

という三部構成でアーティストの素顔と心のうちを探りました。

当日のすべてを語ると長~~~~くなってしまうので、今回はPart1:“俺様”ミケランジェロに愛はあったか?を中心に、当日のイベントをお伝えできればと存じます。なお、聞き役として弊社編集Hが”今回同席しております。

「貴重な土曜日の夜に、お時間をいただきありがとうございます…!」とご挨拶をされる宮本先生。「『メンタルに効く西洋美術』は昨年8月の刊行でしたが、刊行の準備に2年かかった本なので、本のプロモーションも2年かけて行えたら…!」とのことでしたので、今後ももしかしたらイベント等があるかも…?!ぜひご期待ください(!?)

とはいえイベントや美術館にはなかなか伺いにくい昨今です。そのような時にでも書籍を通じて西洋美術に触れることは可能です。『メンタルに効く西洋美術』はそんなおうち時間のおともに、ぜひともお勧めの1冊です。

それではレポに移ります~!

【“俺様”ミケランジェロに愛はあったか?】⇒⇒⇒ありました!

とのことで、さっそくミケランジェロの人柄を垣間見ていきましょう。

なぜ俺様イメージがついたのか?をまず紐解くと・・・
ローマ教皇ユリウス2世の命令で、シィスティーヌ礼拝堂の壁画を依頼されたミケランジェロ。しかし彼は彫刻家であるという自負があり、絵画にはあまり興味がありませんでした。

「メンタルに効く西洋美術」のカバーのこのコメントは、実はそのエピソードを元に作られています。

描きたくない…断りたい…。

その一心で、ミケランジェロはなんと教皇自身に延々といいわけをし続けてしまいます。

「私は絵が下手だし!」
「すばらしいものはできないと思う!」
「代わりにラファエロ君にお願いした方がいいよ!!」

などなど数々のいいわけを受け、その結果教皇は「烈火のごとく怒りだしそうになった。」、との記述が残っています。(コンディヴィの文献より)

そのほかにもたびたび教皇ユリウス二世を激怒させたエピソードの残る、ミケランジェロ。この時代のローマ教皇とは、いうなれば【神様の代理人】ともいえる存在…!!そんな教皇相手でも、自分を曲げず、恐れを知らない彼の胆力には驚かされます。

そんな彼の心を紐解くと、どうやら彼は秀でた才能を持っているのにも関わらず、性格的に少々ネガティブなところがあったようです。
「彼の手紙を読み進めていると、文句が結構多いんですよね…基本暗い!そして愚痴も多いです。」とこれには宮本先生も苦笑い。とはいえ、「けれども彼は受けた仕事は必ず有言実行する「デキル」芸術家なんですよね。」とも先生は仰います。そういった職人気質な彼のもとにはローマ法王以外にも依頼が途切れることなく入り、一生涯ずっと多忙でした。

帰省なんてできやしない…。

そのため彼は愛する家族や友人へ、多くの手紙を送ったのです。

ミケランジェロは、優柔不断な父と経済的に自立しない弟たちを支えるべく、駆け出しのころから一家の大黒柱として真摯に働き、いただいた報酬をせっせと実家へ送金していました。

そのような事情も影響しているのか、家族へあてた手紙はついつい上から目線の命令口調や愚痴が多いのが特徴だそう。
とにかく忙しいんだ!私には手紙を書く時間がないんだ!!といったような言葉が、彼の手紙にほぼ毎回出てくるんです。」と宮本先生が微笑みます。実際忙しかったのだとは思いますが、毎回この文章に目を通す家族の中にはもしかして「忙しいわりには手紙を送ってくるんだよなぁ・・。」とぼやく者もいたかもしれません。

ミケランジェロは兄弟の中でもブオナルロトを特にかわいがっていました。彼には、

「ブオナルロト、おまえが私にこんなにたまにしか手紙をよこさないのはおかしいぞ。」
「おまえが私に手紙をよこすヒマのほうが多いと私は信じている。」
「ブオナルロト、わたしはもう1か月以上もおまえの手紙を受け取っていない。」

と、おまえの方が私より暇なんだから手紙を送れ~と言わんばかりの少々拗ねた手紙を送る日もありました。

しかしブオナロルトが体調を壊した際には、

なつかしいお父さん。。。ブオナルロトが病気だと聞いて、とても心配したし、今も心配しています。どうぞ、この手紙をごらんになったら折り返し、今の容態をお知らせください。」

「もしブオナルロトが危険だったら、一報して下さい、何もかも棄てて参りますから。」

と切々とした手紙を父親に送ります。
彼の弟想いな面が見え隠れして、なんとも愛らしいエピソードです。

送り主によって口調が大きく異なったミケランジェロ。「手紙を見比べてみると実に味わい深いです。」と宮本先生は仰います。

親交の深かった人に一人に、知的で聡明な未亡人の女性・ヴィットリアがいます。彼女が亡くなった際に、ミケランジェロは彼女に詩を捧げました。この詩について宮本先生は、「すごく美しくて、私はもう泣きながら読みました。」「彼は多彩でしたが、人を感動させるような詩をも書ける人。もし彫刻などに秀でた才能がなくとも、彼は詩人としてでも活躍できたのでは?と思います。」と、彼の紡ぐ言葉の魅力を語ります。

なお、このヴィットリアに捧げた詩は「メンタルに効く西洋美術」で紹介されていますので、ぜひご覧になってみてくださいね。

またミケランジェロは、晩年かわいがっていた甥のリオナルドへは、「婚活」をすすめるおせっかいなおじさんとしての側面も見せています。

「他の何物よりも人間として善い人を探さないといけない。」
「容貌が美しいかどうかということなどは、お前自身がすでにフィレンツェでの一番の美青年ではないのだから、その人が病身でさえなければ、そんなことで気苦労するものはない。」

おまえ自身が美少年じゃないんだから、女性の容姿に気をもむな!という、なんともストレートなミケランジェロのアドバイスです。

さて、今回のイベントで登場した芸術家のご三方(ミケランジェロ、カイユボット、ゴッホ)は、実は全員生涯独身でした。
それについて、「私たちから見た芸術家は、非凡な才能に満ちているように見えますが、彼らにとっては芸術活動が『平凡』なことであり、逆に愛情を捧げ家庭を築くことの方が彼らにとっては『非凡』なものだと思っていたのかな、と思います。」と、宮本先生はそうご自身の解釈を最後に仰っていました。そのお言葉に、なるほどなぁと自分は唸ってしまいました。自分に無いものが眩しく見えてしまうその心が、私は身に覚えがあったからに他なりません。

このレポートではミケランジェロのパートのみをピックアップしましたが、名高い芸術家にも人間味あふれる日常と人生が存在していた、ということを伺い知ることで、作品の捉え方も変わってくるように思います。アーティストである前に同じひとりの人間であること。そしてそこから作品の裏側に存在する息づかいを感じ取ることで、西洋美術の世界により親しみを持って接することができそうです。

短い時間ながらも、西洋美術を見る目が豊かになったように感じられる、そんなイベントでした!

冒頭で宮本先生のごあいさつにもあったように、今年も『メンタルに効く西洋美術』の読み物としての魅力と、西洋美術にまつわる知識をお届する場を読者のみなさまにご提供できないか、只今考案中です。ぜひ今後の動向もご期待ください!

最後にもう一度、ご来場いただきました皆様へ、この度はご参加いただきまして誠にありがとうございました

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